心不全の基本治療方針は?

心不全の悪化による入院を繰り返すたびに身体活動は低下します。
そのため、心不全の治療目標は心不全の悪化による入院を減らすこと、および日常生活における自覚症状を改善させることになります。
心不全の治療目標は進行を抑制することです。
治療の基本は大きな2つの柱があります。
1つ目は心不全を悪くする、または心不全の原因となる基礎心疾患(高血圧、虚血性心疾患や心臓弁膜症など)への治療介入です。
2つ目は、心不全に対しての介入です。
主に心不全の進行を抑制するために、心臓保護するお薬の調整していきます。
心不全のステージごとの治療戦略
ステージA:心臓に異常がないステージ
高血圧や糖尿病、動脈硬化から心不全の原因となる虚血性心疾患や心臓弁膜症などの基礎心疾患の発症予防です。
ステージB:心臓に異常があるステージ
虚血性心疾患や心臓弁膜症などまで至った場合は、病気の進展抑制と心不全の発症予防となります。
ステージC:心不全ステージ
心不全まで進行した場合、生命予後改善と症状を軽減することを目標にします。
ステージD:治療抵抗性ステージ
治療抵抗性の心不全まで進行した場合、生命予後改善と症状の軽減を継続します。
終末期心不全では、症状の軽減が主たる目標(心不全緩和ケア)となります。
心不全のお薬(心保護薬)
心不全になると、交感神経が活性化され、心臓に負担をかけるホルモン異常分泌が起こります。
そうなると、進行性に心臓が拡大していき、心臓のポンプ機能を低下させて、突然死、心不全の悪化を招きます。
従って、これらを阻害して抑制することで、心不全の予後を改善することが心不全治療の中心となっています。
慢性心不全に対するお薬は、長年の交感神経系を抑制するβ遮断薬及びレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制するお薬などが生命予後や心不全の増悪を抑えるデータを量産し、心不全の内服加療の主体となっていました。
しかし、ここ数年で新規薬が次々に出てきており、心不全治療が大きく変化して、現在注目されています。
レニン・アンギオテンシン・アルドステロン抑制薬
- ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)
- ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗剤)
- 抗アルドステロン薬
心不全になると活性化される内分泌ホルモンの一つであるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を抑えることで、ポンプ機能が低下した心臓を改善することができます。
β遮断剤
慢性心不全において、健康に生活できる期間や寿命を伸ばすことが、もっとも期待できるお薬です。
交感神経の活性を抑制することで、収縮力が低下した慢性心不全の心臓をリラックスさせて心拍数を下げて、ポンプ機能を高める働きがあります。
利尿剤
むくみや息切れなどの症状がある心不全患者さんに使用することで、余分な水分を尿として体の外に排出します。
心臓の負担を減らして、強力な症状改善効果を得ることができます。
アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
心不全で活性化された内分泌ホルモンの一つであるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系と交感神経の活性を抑制するに加えて、利尿ホルモンの分解も抑えることで尿量を増やして心臓の負担がさらに少なくします。
心不全入院を少なくし、さらに寿命を延ばす効果も証明されています。
SGLT2阻害薬
糖尿病のお薬としても使われていますが、その他に尿量を増やすことで余分な体の水分を少なくさせて心臓の負荷を減らし、交感神経の活性も抑えて心臓をリラックスさせます。
これらの作用によって心不全の発症を減少させて、さらに心不全の再発も抑える期待できる効果があります。
HCNチャネル阻害薬
心不全では弱くなった心臓のポンプ機能を補うために交感神経を活性化することで弱っている心臓を無理に働かしますが、その結果、ポンプ機能がより悪化します。
このお薬は心拍数を減少させ、心臓の負担を軽減する効果があります。
心不全入院を減らしたり、寿命が長くなる効果があります。
運動療法
運動療法にはどんな効果があるのでしょうか?
- 全身の体力が向上します。
- 動脈効果危険因子を改善します。
- 動けるようになることで、自信を持ち、不安やうつ症状を改善します。
- 血管の機能や自律神経が改善し、血栓ができにくくなります。
- 狭心症の再発を早めにすることができます。
- 心臓ポンプ機能を改善します。
- 死亡率と心不全再入院を減らします。
運動療法の効果
出典: J Am Coll Cardiol. 2012 Oct, 60 (16) 1521–1528
心不全患者さんの10年間の生存率を表したグラフです。
どんな運動をすれば良いでしょうか?
運動には「有酸素運動」と「無酸素運動」があります。
「有酸素運動」とは、体内への酸素の取り込みながら行う運動です。
「無酸素運動」とは、体内への酸素の取り込みが不十分になった状態での運動です。
「無酸素運動」のような激しい運動をしてしまうと、帰って心臓に負担をかけてしまうことがあるため、心不全患者さんには「有酸素運動」が適しています。
どのくらい運動をすれば良いでしょうか?

軽く汗ばみ、となりの人と会話ができる程度の運動が適当です。
脈拍数または心拍数では110回/分が目安になります。
運動の頻度は1週間に3~5回程度が理想です。
連続して運動することが難しい方は、こま切れに行っても構いません。
運動する時に注意することはありますか?
体調が悪いときには無理に運動することは避けましょう。
特に運動習慣が身についている方ほど頑張りすぎる傾向があるので注意してください。
起床後や食後すぐの運動は控えて、1~2時間くらい経ってから行いましょう。
脱水になると血液の濃度が高くなり、血栓症の引き金になるので、運動前・中・後に適宜水分補給をしましょう。
常に運動中に体調をチェックし、胸の痛み・息切れ・動悸・めまい・ふらつきなどの症状が出た場合は運動を中止して医師に相談してください。
日常生活について
入浴について
急激な温度差は血圧を急激に上昇させて心臓に負担をかけます。
特に冬場は入浴前に浴槽のフタを開けてお風呂場や脱衣所を暖めるなど、温度差がないようにしましょう。
1番風呂を避けるのも工夫です。
心臓への負担
入浴は1分30秒階段を上がり降りするのと同じくらい心臓に負担がかかります。
40℃くらいのお湯に10分程度を目安として入浴してください。
熱いお湯に浸かると心拍数を上げ、心臓に負担がかかります。
入浴後は食事や散歩などの労作は避けて、安静にしましょう。
サウナは脱水と寒冷刺激で体に負担がかかるので避けてください。
お仕事について
理想的には退院後しばらくは自宅で療養し、屋内などの生活や買い物程度に慣れてから、徐々に仕事や家事に復帰されるのが良いでしょう。
仕事はストレスになることも少なくありません。
肉体労働、興奮したり緊張したりする仕事、時間に追われる仕事、残業の多い仕事、夜勤などの不規則な仕事は心臓に負担かけると言われています。
仕事復帰の可否の時期については、心臓の回復の具合や体力、仕事内容によって異なります。
医師をよく相談しながら、仕事に戻るようにしましょう。
睡眠について
睡眠不足は自律神経の異常を誘発して狭心症発作や不整脈を起こすことがあります。
そのため睡眠不足が続く場合は医師に相談し睡眠剤の処方を考慮するなどして十分な睡眠が取れるようにしましょう。
これまで就寝中に心臓発作を起こしたことのある人は、家族と同じ部屋で寝るようにしましょう。
外出について

発作や血圧は気象(気圧)の影響を受けるので、寒い日や太陽が照りつけるような暑い日、雨や台風の日など1日の温度差が激しい時はなるべく外出は控えましょう。
早朝の運動は心臓への負担がかかりやすいので避けてください。
冬場で屋内から屋外へ寒暖差が激しいと、心臓に負担がかかり心臓発作のリスクが高くなります。
寒い時は手袋やマフラーなどを使用して、防寒対策をして外出しましょう。
旅行中の食事は、コレステロールや塩分を多く取りがちになりますので、量や味付けに気を付け、残すなどの工夫も必要です。
禁煙について
タバコは心臓病を含め肺気腫やがんなど様々な害が知られています。
また、受動喫煙による健康被害も問題になっています。
なぜ禁煙が必要かの理解を深めることがまずは大切です。
「ニコチン依存症」はひとつの病気です。
ご自身で禁煙が難しいと思ったら、専門医と一緒に禁煙に取り組みましょう。
入院が必要な心不全の症状とは?
下のような心不全の状態のときは、入院治療が必要になる可能性があります。
- 少しからだを動かしただけで、息切れや動悸、疲労感などの心不全症状が出現する。
- からだを何も動かしてない状態でも、息切れや動悸、疲労感などの症状がある。
- ここ数日、または1~2週間の期間で足が浮腫んできた。
- ここ数日、または1~2週間の期間で体重が増えた。
- 夜、横になって寝ると息苦しさが出てきた。
チーム一体となり、サポートしていくことが大切です
最後に、心不全の治療や予防は、ご本人と主治医のみでは難しく、ご家族やパートナー、看護師、薬剤師、リハビリ、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどの多職種の医療従事者を含めたチーム一体となり、サポートしていくことが大切となります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
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